報告者:マウンドー事務所 U Zin Min Htike
ラカイン州では、東をアラカン山脈、西をベンガル湾に挟まれた地理的特徴から、豪雨や洪水、サイクロンなどの自然災害がたびたび起こります。2010年以降に限っても、巨大サイクロンの被害が3度あり、2015年には大規模な洪水も発生しています。
今年5月にも猛烈なサイクロンが州北部を直撃しました。勢力や大きさは、2008年にエーヤワディー管区で14万人の死者不明者を出したサイクロン・ナルギスに匹敵する予報でした。駐在員が不在の中、現地職員がおこなった減災対応の様子を、U Zin Min Htikeが報告します。
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猛烈なサイクロンの予報
2023 年 5 月8日、ベンガル湾にある猛烈で大きなサイクロン「モカ」がミャンマーに向かっていることを、気象水文局のウェブサイトで確認しました。多くの予報サイトも、最大で時速190マイル(秒速85 m)の強風を伴うサイクロンが、数日後に州北部の海岸に上陸することを伝えており、事務所のあるマウンドー市街も予報進路地域に含まれていました。
緊急の準備
10日には、4日後の日曜日にマウンドー郡を直撃することが確実になったため、翌11日に全職員参加の緊急会議を開き備えを開始しました。会議においては、職員自身と家族の安全を確保するための、事前、襲来時、事後のそれぞれの段階での注意事項や対処行動を確認しました。具体的には、事前に気象局のウェブサイトを毎日複数回確認し常に最新情報を入手する、襲来時や事後の家族間の連絡方法を確認する、また飲料水、乾燥食材、薬、懐中電灯、ライター、ロウソク、携帯電話の電池などを備蓄する。襲来時には最も強固な部屋に避難しドアや窓、樹木や電線から離れる。事後には、荒天が過ぎるまで安全な場所にとどまり、自身と周囲の人の怪我の有無と程度を確認し必要な救助をする、また塩害を受けるであろう井戸水の飲用には注意する、などです。
事業継続マネジメントとしては、翌12日の金曜日に全職員・全セクションが物資とデジタル情報の保全対策をおこないました。重要書類や、デジタルデータのバックアップを取った外付けハードディスク、コンピュータ、プリンタ、高価な工具などをビニールシートで梱包し、これらをプラスチックの箱に入れ止水したのち、近隣の堅牢な赤十字の建屋の2階に保管させてもらいました。梱包や持ち出しができない物は、防水シートを被せて高所へ移動しました。
さらに全職員に携帯電話のプリペイドカードを配布し、連絡網を共有し管理セクションとの通信を確保するよう指示し、土日の襲来に備えました。
避難とサイクロン襲来
避難や防災に対する地域の人々の行動は、さまざまでした。高潮を危惧して沿岸のマウンドーから山地を隔てて20 kmほど内陸のブティダウンに避難した住民がいた一方で、暴風だけを考えてマウンドーにとどまった人もいました。避難所は、僧院、学校、親せきや友人の家などですが、避難先の当てのない人や、自宅や自分の土地に愛着がある特にお年寄りは、移動しませんでした。BAJは全職員に対してより安全な場所への避難を指示しましたが、サイクロンの予報進路に近いマウンドー南部の村の「死を覚悟して留まっている母親」のもとに帰省してしまった者もいました。
14日日曜日の午後 1 時 30ころ、最大風速145マイル/時(秒速65 m)の勢力でサイクロンはマウンドー市街から70 kmほど南に上陸しました。暴風圏はマウンドー郡、ラティダウン郡、シトウェ郡にまたがり、内陸へと移動していきました。
被災状況
翌月曜日に職員が車で各地を巡回したところ、マウンドー郡南部やラティダウン郡では、目算で90% 以上の建物が屋根と柱や梁が壊れるなど大きな被害を受けていました。幸いマウンドー郡北部とブティダウン郡では、最大でも80マイル/時(秒速36 m)程度の風速にとどまり、高潮も発生せず人的被害は出なかったようです。それでもマウンドー市街では電線が各所で寸断され、電話の通信施設が被災し、BAJの敷地内でも大木のいくつかが倒れたり、建屋の一部が損傷したりしました。
管理セクションは、サイクロン通過後に各職員や家族の安否確認に追われました。マウンドーに留まったりブティダウンに避難したりした職員たちには人的被害がないことがすぐに確認できました。一方、南部の村に帰省した職員と、さらに南の州都シトウェの駐在職員とは通信手段がなく、無事が確認できたのは17日の水曜日でした。BAJでは自宅や実家がほぼ全壊した職員は職員13名にのぼり、その他の多くの職員も被災した家の片づけを続けることになりました。
事業の復旧
暴風のため、電柱・電線と携帯電話中継アンテナが損壊したため、14日から停電し電話とインターネットも遮断されました。緊急連絡や安否確認に使うことを想定していた電話は、サイクロン後には使えないことを身もって知ることになり、連絡手段の確保は今後の課題であると痛感しました。また結果的に今回のサイクロンでは、物資とデジタル情報の保全対策は不要であったかもしれませんが、今後起こりうる洪水や高潮への訓練経験となりました。
電話とインターネットは6月第1週まで、電力は7月の第3週まで復旧せず、事業運営にはさまざまな不都合や困難が生じました。パートナーであるUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)が、幸い衛星回線を使わせてくれたたものの、ヤンゴン事務所や東京事務所と連絡を取るために、毎日彼らの事務所にいかなければなりませんでした。
また、マウンドーの国連機関やBAJを含む連携団体は、新たに多くの発電機が必要になり、5月から6月にかけてBAJのワークショップ部門はこれらの修理と整備に多くの人と時間を割くことになりました。雨季のはじめに国連機関から要求されるモーターボートの屋根やフロントガラスの修理と相まって、非常に多忙な日々が続いています。
BAJ マウンドー事務所は、サイクロンの前から事後にわたって緊急対応を計画し管理しました。計画では想定されなかった事態も今回経験し、さらに災害への備えをレベルアップしなければならないと痛感しています。
(翻訳・加筆・修正 大野勝弘)
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